1970–1972年 アメリカ音楽史 - 60年代の後処理と再編の時代
🎯 はじめに
本稿は、1970〜1972年のアメリカ音楽を、社会背景と音楽技術(楽器/録音/再生/放送/受信機) の変化に結びつけて整理する。 1960年代後半のカウンターカルチャーが終息し、理想と現実の落差を引き受ける過程で、音楽は「集団的ユートピア」から「個の内面」「職能としての音楽」へと移行していく。その“後処理”が、この第1期の本質である。
🧭 社会背景:理想の破綻と内省への転回
🌪 60年代の夢の終焉
- ベトナム戦争の長期化と徴兵制への不信
- 公民権運動の分裂、急進化と疲弊
- 1969年アルタモントの惨事に象徴されるヒッピー文化の瓦解
- 1970年:ケント州立大学銃撃事件が若者の政治的理想を冷却
1969年のウッドストックが「到達点」なら、1970年はその反動としての「清算期」にあたる。
参考記事:
- 1969年アルタモントの惨事――ヒッピー文化はなぜ瓦解したのか
- 1970年 ケント州立大学銃撃事件――若者の政治的理想はどこで冷却したのか
- ウッドストックはなぜ成功し、アルタモントはなぜ失敗したのか――1969年、同じ理想が辿った二つの結末
🧠 集団から個へ
- 「世界を変える音楽」から「自分を説明する音楽」へ
- メッセージは社会批評から私小説的表現へ移行
- 大規模ムーブメントより、シンガー個人の語りが支持される
🎛 技術環境:アナログ成熟期の始まり
🎚 録音・制作
- 16トラック録音が主流化し、音像の分離と重ね録りが洗練
- スタジオは「記録の場」から創作の場へ
- プロデューサーの役割が拡張(音楽的判断への関与)
アナログ機材の制約が、演奏力とアレンジ力の向上を促した。
📻 再生・放送
- FMラジオの普及により、長尺曲・アルバム志向が可能に
- AMのヒット単曲中心から、**アルバム・オリエンテッド・ロック(AOR)**への移行
- 家庭では高音質ステレオが中産階級に浸透
🎸 主要ジャンルと代表的アーティスト
🎤 シンガーソングライター(内省の主役)
- James Taylor
- Carole King
- Joni Mitchell
特徴:
- フォーク由来の簡素な構成
- 日常・感情・人間関係を主題に
- 聴取環境は「部屋で一人」が想定される
『Tapestry』(1971)は70年代SSWの価値観を決定づけた作品。
🎸 ロックの再編(ポスト・サイケデリア)
- The Rolling Stones(※米市場中心に活動)
- Crosby, Stills, Nash & Young
- Neil Young
特徴:
- サイケデリックの退潮
- ルーツ回帰(ブルース/カントリー)
- 社会批評は残るが、語り口はより個人的
🕺 ブラック・ミュージックの深化(ソウル〜ファンク)
- Marvin Gaye
- Curtis Mayfield
- Sly and the Family Stone
特徴:
- 公民権以後の現実を直視
- 政治・都市・アイデンティティをテーマに
- リズム重視、後のディスコ/ヒップホップの土壌形成
同時代に「黒人音楽=一枚岩」と捉えるのは誤り。表現は急速に多様化している。
🧩 1970–1972年の総括
- 60年代の理想は否定されず、形を変えて内面化
- 音楽は「運動」から「表現産業」へ
- 技術は派手さより完成度と再現性を志向
- 次期(1973–75)への布石として、ジャンルの分化と専門化が始まる
この時期を単なる「地味な移行期」と見ると、70年代全体の構造を見誤る。