🧩 アーキテクチャ設計は説明責任である
🧭 はじめに
このページでは、A-SPICEにおいてアーキテクチャ設計が「説明責任(Accountability)」として扱われる理由を明確にする。 設計とは単に構造を決める行為ではない。A-SPICEの文脈では、「なぜこの構造なのかを第三者に説明できる状態を作る行為」 そのものが設計である。
🧱 背景・前提:自動車ソフトにおける設計の特殊性
自動車ソフトウェアの設計には、次の前提が常に付きまとう。
- 複数ECU・複数レイヤにまたがる分散構造
- 機能安全・性能・制約条件の同時成立
- サプライヤ間での役割分担
- 長期保守・派生開発の前提
この環境では、「今のメンバーが理解できる設計」は不十分である。 将来の他者が理解できることが設計の成立条件になる。
A-SPICEがアーキテクチャ設計を重視するのは、将来に対する説明可能性を品質の一部と見なしているためである。
🧠 A-SPICEの構造:設計は判断の履歴である
A-SPICEにおけるアーキテクチャ設計は、単なる構成図の作成ではない。
- なぜこの分割なのか
- なぜこのインタフェースなのか
- なぜこの配置なのか
- なぜ他の選択肢を採らなかったのか
これらの判断の積み重ねこそがアーキテクチャである。
📐 図が求められる理由
アセスメントでアーキテクチャ図が重視されるのは、「図が好きだから」ではない。
- 設計意図を短時間で共有できる
- 構造上の責務分離が視覚的に検証できる
- 要求との対応関係を説明しやすい
という、説明責任を果たすための最短経路だからである。
図が存在しない設計は、説明できない設計と見なされやすい。
🛠 実務上の意味:「コードを見れば分かる」が通らない理由
現場でよく聞かれる言葉に「コードを見れば分かる」がある。 しかしA-SPICEの前提では、これは成立しない。
- コードは結果であり、理由ではない
- 設計判断の比較検討の痕跡が残らない
- 第三者が妥当性を評価できない
アーキテクチャ設計とは、コードを書く前に行った判断を、他者が追跡可能な形で残す行為である。
設計をコードにのみ埋め込むことは、説明責任を放棄する行為に等しい。
🧩 典型的なアーキテクチャ不在の症状
アーキテクチャ設計が弱いプロジェクトには、共通した兆候がある。
- 機能追加のたびに影響範囲が読めない
- なぜその構造なのか誰も説明できない
- レビューが感覚論になる
- テスト観点が構造と結びつかない
これらはすべて、設計判断が明文化されていないことに起因する。
アーキテクチャ不在は、短期的には速く見えるが、必ず後工程で破綻する。
🧠 A-SPICEが本当に見ている点
アセスメントにおいて問われているのは、「立派な図があるか」ではない。
- 要求との対応関係を説明できるか
- 代替案との比較検討が語れるか
- 制約条件を理解した上での選択か
- チーム内で共通理解になっているか
つまり、設計という意思決定に責任を持っているかが見られている。
良いアーキテクチャとは、第三者からの「なぜ?」に即答できる構造である。
🧾 まとめ:設計とは「説明可能な判断」を残すこと
A-SPICEにおけるアーキテクチャ設計の本質は明確である。
- 設計は構造図を描く行為ではない
- 設計は判断と理由を残す行為である
- 説明できない設計は、存在しないのと同じ
アーキテクチャ設計とは、未来の他者に対する説明責任を果たすための工程である。 これが、A-SPICEが設計を重く扱う理由である。