⚠️ TLS1.3の0-RTTとリプレイ攻撃リスク
🌱 はじめに
TLS1.3は高速な暗号化通信を実現するため、**0-RTT(Zero Round Trip Time)**という仕組みを導入しました。これにより、過去に接続したことがあるサーバーとの再接続時、最初のメッセージから暗号化通信を始められます。
しかし、この便利な機能には「リプレイ攻撃」という潜在的なリスクが存在します。この記事では、0-RTTの仕組みとリプレイ攻撃の問題点、その対策について整理します。
⚡ 0-RTTとは?
通常(1-RTT)の流れ
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ClientHelloを送信 → サーバー応答 → Finishedで暗号化開始
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少なくとも1往復の待ち時間が必要
0-RTTの場合
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過去のセッション情報を利用して、ClientHelloと同時に暗号化データを送信可能
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サーバー応答を待たずに通信が始まるため、モバイルや高遅延環境で特に有効
0-RTTは「再接続の高速化」によって、ユーザー体験を大きく改善する。
🚨 リプレイ攻撃の仕組み
リプレイ攻撃とは
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攻撃者が通信を盗聴し、同じリクエストを再送することで不正に処理を繰り返させる攻撃。
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例:
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ユーザーが「商品を購入」するリクエストを送信
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攻撃者がそのリクエストをコピー
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攻撃者が再送して「二重注文」させる
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なぜ0-RTTが狙われやすいか
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0-RTTで送られるデータは、サーバー応答前に処理される可能性がある
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順序や回数を保証する仕組みが弱いため、同じデータが複数回適用される危険性がある
0-RTTは暗号化されていても、「同じメッセージが再利用される」点では守り切れない。
🛡️ 0-RTT利用時の制御と対策
1. サーバー側での制御
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Idempotent(冪等)リクエストのみ許可
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GETや読み取り系の処理は問題なし
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POSTや決済など「繰り返し実行で意味が変わる処理」は拒否
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0-RTTデータを受信した場合、必要に応じて**再送検知(Replay Detection)**を行う
2. アプリケーション側での対策
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決済や注文処理などは0-RTTでは受け付けない設計にする
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トランザクションに**一意のID(Nonce)**を付与し、二重実行を防止
3. クライアント側の注意
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ブラウザやアプリ側で「安全でないリクエスト」を0-RTTに乗せない制御を行う
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多くの実装(Chrome, Firefox, OpenSSLなど)ではデフォルトで制限付き利用
0-RTTを安易に導入すると、セキュリティより利便性を優先してしまう危険がある。
🌍 現実の運用
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CloudflareやAWSなど大規模サービスでは、0-RTTを提供しているが用途を限定している
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一般的に「静的コンテンツ取得」などの安全な処理には使われるが、「決済」「投稿」「データ更新」などでは無効化されている
🎯 まとめ
TLS1.3の0-RTTは通信を高速化する強力な仕組みですが、リプレイ攻撃のリスクを抱えています。
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便利だが安全ではない場面がある
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冪等リクエスト限定で使うのが原則
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重要処理では利用を避けるべき
0-RTTは正しく制御すればユーザー体験を改善できるが、無条件に使うのは危険。設計段階からリスクを理解して使い分けることが重要です。