🛡️ Stateful Packet Inspection(SPI)の仕組みと役割
はじめに
ファイアウォールの仕組みを理解するときに欠かせない概念のひとつが Stateful Packet Inspection(SPI) です。これは「パケット単位でのフィルタリング」から一歩進んで、「通信の状態」を追跡することでセキュリティを高める技術です。本記事では、SPIが生まれた背景、その仕組み、利点と課題、そして現代における役割について解説します。
📜 SPI誕生の背景
初期のファイアウォールは Stateless Packet Filtering と呼ばれ、各パケットの送信元・宛先IPアドレスやポート番号、プロトコルに基づいて「通す/遮断する」を判断していました。
しかし、この方式には次の問題がありました。
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パケット単位でしか判断できず、通信全体の文脈を理解できない
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攻撃者が「正規のポート」を装うと簡単にすり抜けてしまう
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不正セッションの検知が難しい
こうした限界を克服するために登場したのが Stateful Packet Inspection です。
⚙️ SPIの仕組み
基本動作
SPIではファイアウォールが「セッションの状態」を保持し、通信が正規の流れに沿っているかをチェックします。
状態追跡の例(TCPの場合)
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接続開始: TCP 3ウェイハンドシェイク(SYN → SYN/ACK → ACK)を確認
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セッション確立: 正規の通信として「状態テーブル」に登録
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データ転送: 状態テーブルを参照し、対応するパケットだけを通過させる
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接続終了: FINやRSTを確認して状態を削除
重要なポイント
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状態テーブル(connection table)を管理
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TCPだけでなくUDPやICMPもトラッキング可能(疑似セッション化)
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正規に確立したセッションに属するパケットのみ通過
🚀 SPIのメリット
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セッション単位の防御: 不正なパケットを高精度で遮断できる
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ダイナミックルールの適用: 内部からの接続に応じて外部からの応答を許可
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利便性と安全性の両立: 内部ユーザーは意識せずインターネット利用可能
SPIの導入により、従来型の静的ルールベースのファイアウォールよりも高いセキュリティと柔軟性を実現できた。
⚠️ SPIの課題
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パフォーマンス負荷: 状態テーブルの管理にリソースが必要
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DoS攻撃への弱さ: セッションを大量に張られると状態テーブルが溢れてしまう
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アプリケーション層攻撃には非対応: SQLインジェクションやXSSなどは検知できない
SPIは万能ではなく、アプリケーションレベルの脅威にはWAFやIDS/IPSなどとの併用が不可欠。
🛠️ SPIの代表的な利用例
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企業ネットワークの境界ファイアウォール
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家庭用ルーター(NAT+SPI)
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**UTM(統合脅威管理アプライアンス)**の基本機能
🔄 他方式との比較
特徴 | Stateless Filtering | Stateful Packet Inspection | 次世代ファイアウォール(NGFW) |
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判断基準 | パケット単体 | セッション状態 | アプリケーション+コンテンツ |
精度 | 低い | 中程度 | 高い |
性能 | 高い | 中程度 | 低め(重い) |
攻撃対応力 | 限定的 | 一般的な不正接続は防御可 | アプリ層攻撃も防御可能 |
🎯 まとめ
Stateful Packet Inspectionは、従来のパケットフィルタリングの限界を克服し、現在のファイアウォールの基礎となっている技術です。ただし、アプリケーション層の攻撃には対応できないため、現代では WAFやNGFWとの組み合わせ が一般的になっています。