🎭 大正文学とモダニズム
📝 はじめに
本記事では、大正期(1912–1926)における 都市化・大衆化の進展と文学の変容 を軸に、日本文学がどのように新しい表現と価値観を獲得していったのかを整理する。 自然主義の内省的リアリズムを相対化しつつ、人道主義・個人主義・感覚的実験 が併存した時代として、大正文学を位置づける。
🗳️ 大正デモクラシーと文学
社会背景と読者層の変化
大正期は、普通選挙運動の高揚、労働運動・女性解放思想の広がりなど、いわゆる大正デモクラシーの時代である。 都市人口の増大と中間層の拡大により、文学は限られた知識人のものから、都市生活者の文化へと射程を広げた。
- 雑誌文化の発展(『中央公論』『改造』など)
- サラリーマン・学生・女性読者の増加
- 文学が思想・芸術・娯楽の交点に置かれる
この時代、文学は「人生をどう生きるか」を問う思想的メディアとしての役割を強めていく。
🌿 白樺派と人道主義
反自然主義の倫理的文学
自然主義の告白的・悲観的傾向に対し、人間の尊厳・理想・内面的成長を肯定的に描こうとしたのが白樺派である。 同人誌『白樺』を中心に活動し、西洋近代思想(トルストイ、ロマン・ロランなど)の影響を強く受けた。
主な特徴
- 個人の内的自由・良心の尊重
- 人道主義・理想主義
- 自然主義的「暴露」からの距離
代表的作家と作品
- 武者小路実篤 『友情』『或る男』
- 志賀直哉 『城の崎にて』『暗夜行路』
白樺派は、日本文学に「人間肯定の語り口」を定着させた点で大きな意義を持つ。
🌀 モダニズム文学の登場
都市感覚と表現実験
1920年代に入ると、都市のスピード、匿名性、断片化された感覚を主題とするモダニズム文学が登場する。 これは倫理や人生観よりも、知覚・形式・リズムそのものを問題にする文学であった。
特徴
- 映画・広告・ジャズなど新興メディアの影響
- 意識の断片化、非連続的構成
- 物語性の希薄化、言語実験
代表的作家と作品
- 横光利一 『蠅』『機械』
- 川端康成(初期) 『伊豆の踊子』
モダニズム文学は革新的である一方、難解・非人間的との批判も当時から受けていた。
🪞 谷崎潤一郎と美の転換
― 西洋志向から日本回帰へ
作風の大きな転換
谷崎潤一郎は、大正文学を代表する存在であり、その軌跡自体が時代の美意識の揺れを体現している。
前期:西洋的・耽美的世界
- 人工美・フェティシズム
- 近代都市の感覚的刺激
代表作: 『痴人の愛』
後期:日本的美意識への回帰
関東大震災後、関西に移住したことを契機に、日本の伝統美・陰翳・身体感覚へと関心を移す。
代表作: 『春琴抄』『陰翳礼讃』
谷崎の転換は、単なる懐古ではなく、近代を相対化した上での日本美の再発見と評価される。
🔎 まとめ:大正文学の位置づけ
大正文学は、
- 自然主義を乗り越える倫理的模索(白樺派)
- 都市化が生んだ感覚的・形式的実験(モダニズム)
- 近代と伝統の再編(谷崎潤一郎)
という複数のベクトルが同時進行した時代であった。
この多様性こそが、大正文学を近代日本文学の最も豊穣な時代の一つにしている。
次章では、これらの成果と緊張が、昭和初期の社会意識文学へどのように引き継がれていくのかを見ていく。