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名古屋市美術館 スウェーデン・テキスタイル予習ノート

これは愛知県美術館の絵画展とかなり相性がよいです。二つを続けて見ると、

絵画が「スウェーデンらしい自然と暮らし」を発見し、テキスタイルがそれを室内と身体の中へ取り込んだ

という連続した流れとして見られそうです。

絵画展との最大の接続点

19世紀末の絵画では、森、湖、鳥、花、夏の夜、家庭生活などが「スウェーデンを表す題材」として選ばれました。

20世紀のテキスタイルでは、それらが、

  • 花や葉
  • 鳥や動物
  • 森や果実
  • 夏の暮らし
  • 民話や聖書物語

といった反復可能な模様へ変換されています。

出品リストにも、エルサ・グルべリ《ユリ》《ヨーロッパナラの葉》、ゴッケン・ヨブス《8月》《水路の花々》など、自然を直接題材とする初期作品が並んでいます。

ここでは、自然を写実的に再現しているかよりも、

植物や動物の特徴を、どこまで単純化すれば模様として成立するか

を見ると面白いでしょう。

絵画と違って「反復」が主役になる

一枚の絵画では構図が画面内で完結しますが、布の模様は上下左右へ続くことを前提とします。

したがって、テキスタイルでは一つの花や鳥の形だけでなく、

  • モチーフ同士の間隔
  • 縦横のリズム
  • 同じ形の向きの変化
  • 背景の余白
  • 継ぎ目が目立たない構造
  • 大きな面積で見たときの密度

が重要です。

展示では、近くで一単位の図柄を見た後、数歩離れて布全体を見るとよいです。

近くでは花や動物に見えても、遠くからは色の帯や幾何学的なリズムとして見える作品があるはずです。

「何が描かれているか」と「壁一面に広がったとき何に見えるか」を分けて観察すると、テキスタイル独自の設計が見えやすい。

「自然を室内へ持ち込む」は比喩ではない

公式説明では、長い冬を室内で快適に過ごすために自然のモチーフを取り込んだとされています。

ただし、単に花柄で部屋を明るくしたというだけではなさそうです。

カーテンや壁布として使われる場合、布は室内で大きな面積を占めます。そこに森、花、鳥、果実を配置することで、室内そのものが人工的な庭や林のようになります。

絵画では窓から自然を眺めていたのに対し、テキスタイルでは、

自然が壁、窓、家具、衣服の表面へ移動する

と考えられます。

これは「自然とともに暮らす」という北欧的イメージを、実際の生活空間として実装する行為です。

ポップな色彩は、自然の忠実な色ではない

公式の「ポップでカラフル」という説明は、絵画展の薄明や静かな色調とはかなり対照的です。

ここが両展の面白い違いです。

絵画では北欧の光を観察し、微妙な青、緑、灰色を使って自然の雰囲気を表しました。

一方テキスタイルでは、自然物を、

  • 原色
  • 強い補色
  • 平面的な色面
  • 輪郭線
  • 現実にはない配色

へ変換しています。

つまりテキスタイルは、自然をそのまま室内へ運んだのではなく、

自然から形を借り、色は生活空間に適するよう再設計した

と見る方が正確です。

「この花は実物に似ているか」ではなく、「なぜこの花をこの色にしたのか」を考えるとよいでしょう。

実用品であることを忘れない

テキスタイルは美術作品であると同時に商品・工業製品でもあります。

絵画と違って、

  • 同じ柄を繰り返し生産できるか
  • 印刷工程に適しているか
  • 汚れや日焼けが目立ちにくいか
  • 家具や壁と組み合わせやすいか
  • 衣服にしたとき身体の曲面でどう見えるか
  • 流行に耐えられるか

といった条件を受けます。

出品リストにはハンドプリントと通常のプリントが混在し、アーカイブブックも含まれています。これは完成品だけでなく、模様が製品化・保存・再利用される産業的な仕組みも見る機会になりそうです。

テキスタイルでは、芸術性と量産性は対立するとは限らない。優れた模様とは、複製され、切られ、縫われ、広い面積に使われても魅力が失われない設計でもある。

作品名を見るだけでも世界観が分かる

出品リストには、花や木だけでなく、

  • 《私の動物園》
  • 《空港》
  • 《サーカス》
  • 《ノアの方舟》
  • 《カエルの王子さま》
  • 《王国》
  • 《夏休み》
  • 《夏の暮らし》
  • 《ジュースのコップ》
  • 《サラダボウル》

など、自然、物語、近代生活、食卓が同列に並びます。

ここから見えるのは、スウェーデン・テキスタイルが「自然柄」だけではないことです。

自然、伝承、家庭、都市、技術をすべて親しみやすい平面模様へ変換する文化だったと考えられます。

アストリッド・サンペの《樹皮》と《コンピュータによるバラ》が同じ作家の作品として並ぶのも象徴的です。自然の表面と新しい情報技術の双方を、模様を生む仕組みとして扱っています。

鑑賞時に使えそうな問い

今回はこちらの5点が有効だと思います。

  1. 元になった自然物の、どの特徴を残し、どこを捨てたか。
  2. 一単位の図柄と、反復した全体では印象がどう変わるか。
  3. この配色は自然の再現か、室内を明るくするための設計か。
  4. カーテン、家具、衣服のどこに使うと最も効果的か。
  5. これは鑑賞する模様か、実際に暮らしの中で使いたい模様か。

最後の問いは特に重要です。美術館の白い壁では魅力的でも、自宅の壁一面にあると圧迫感が出る柄もあります。逆に、単体では地味でも、カーテンやワンピースになることでリズムが生まれる柄もあります。

愛知県美術館では「国の自然や生活をどう描いたか」を見て、名古屋市美術館では「それをどう模様へ圧縮し、日用品として拡張したか」を見る。この順序で鑑賞すると、二つの企画展が一本のデザイン史としてつながりそうです。